かつての花街で酒も歴史も楽しむ

山形市の中心部には、明治から大正時代にかけて建築された古い建物がいくつも点在し、
ノスタルジックな街並みが息づいている。七日町エリアにある「花小路」も、
古き良き時代の名残を今に伝える昭和レトロな飲食街だ。
そんなノスタルジックな空気とともに酒肴を味わう大人の醍醐味を満喫してきた。

コラム

山形・花小路ではしご酒

  • メインの「アーチ通り」両側には居酒屋や小料理屋などが軒を連ね、脇道に入れば昭和が香るスナックやバー。今夜は何軒はしごできるかなと、ワクワクと心躍らせながらゲートをくぐろうとすると……。

  • おっと、その前に。
    花小路の歴史に触れるなら、老舗料亭「旧千歳館」について語るべきだろう。

  • 明治44年(1911)の市北大火により、山形市北部の広範囲が焼失。長源寺通り(旧勧業銀行跡地)で2000坪以上もの豪勢な料亭を営んでいた「旧千歳館」も被害に遭い、移転を余儀なくされた。そして、大正4年(1915)に現在地で再建。当時の館主は、料理を提供する“料理屋”、芸妓を呼んで遊興する“待合(まちあい)”、芸妓がいる“置屋”の三業を主体とした街づくりを推奨したため、この地は花街(花柳街)として大いに発展したという。
    その後、時代の荒波を何度も乗り越えきた「旧千歳館」だったが、新型コロナウイルス感染症の影響により2021年に休業。山形市は、国の登録有形文化財となっている主屋などの寄付を受け、建物を生かした都市公園として活用すると発表した。「旧千歳館」だけにとどまらず、七日町の「御殿堰(ごてんぜき)」などの史跡を一体的に絡めた、エリアの再整備も行われる予定があり、今後の旧千歳館周辺エリアの変貌に期待が高まる。

鍋料理 おまつ

  • 花小路を盛り上げた「旧千歳館」の功績を心の中で讃えながら、はしご酒の1軒目、「鍋料理 おまつ」へ。

  • 花小路で長く屋号を掲げる老舗の1軒だが、鍋料理の店として現在のスタイルになったのは昭和39年から。鶏つくねが主役の「鳥叩き鍋」(1人前1950円)が看板料理で、ビールや地酒に合う一品料理を豊富に取り揃える。

    この日は、数日前までに予約必須の「葱鮪鍋」(1人前3900円・2名以上から)をいただいた。現店主の秋葉善則さんは以前、魚の卸業に就いており、この鍋に使うマグロはまさに目利きの選りすぐり。美しく輝く赤身をそのまま刺身で味わいたい衝動に駆られながらも、グッと堪えた。

  • いわゆる江戸前の葱鮪鍋は、その名の通りマグロとネギのみの具を醤油味の出汁で味わうシンプルな仕立てだが、「おまつ」の鍋は具だくさん。モヤシや大根などのほか、庄内地方伝統の板麩も加える。

  • 目の前で、女将の嘉代子さんが丁寧に調理してくれる。火にかけて数分、昆布や薩摩本枯節で取った出汁が魅惑的に香り立ち、期待感がますます高まっていく!

  • マグロと野菜の風味が溶け合って、ついに絶好の食べ頃に。たっぷりと旨みを吸った板麩もたまらない。針生姜のおかげでサッパリとした後味となり、何杯でもいけてしまう…。締めに、「鍋用きしめん」(500円)を入れるのが常連客の定番となっているそう。

  • おすすめで出された「焼鳥」(1串130円)は、鶏肉の多彩な部位を1串に集め、ねぎまで味わえる左党にうれしいつまみ。「大山 純米酒」や「羽陽男山 つららぎ」といった山形の地酒との相性もバッチリだ。
    ごちそうさまでした!

住所 山形県山形市七日町4-9-16
アクセス 山形自動車道山形蔵王ICより車で約10分
駐車場 なし
TEL 023-622-3576
営業時間 17:00~22:30(L.O.22:00)
定休日 日曜休

肉ばっか

  • 2軒目は、思い切ったネーミングに惹かれて「肉ばっか」に足を向けた。
    いかにも高級料亭っぽいたたずまいだけど、入店できるのだろうか……。

  • 引き戸を開けると、元気な挨拶とともに店長の斉藤直樹さんとスタッフが笑顔で出迎えてくれた。ここは、同じ花小路にある老舗料亭「浜なす」の本店だった店構えを引き継ぎ、2018年にオープンした肉料理専門店。純和風の調度をそのまま生かした店内には90年代のヒットナンバーが流れ、グループ客で賑やかな笑い声が響く人気店だ。

  • 上質な山形牛を使ったすき焼きやしゃぶしゃぶなどが味わえるこの店。
    焼肉なら、霜降りや赤身、サガリなどを一皿に集めた「本日のオススメ5品盛合せ」(3280円)をぜひ。格安で提供しているのは、もっとたくさんの人においしい山形牛を楽しんでほしいというオーナーの強い信念によるもの。天晴!

    メニューボードに目移りしながら、まずは看板料理をオーダーしたら…。

  • 鉄鍋にそそり立つ、肉のタワーが出現!
    これこそ、オープン当初から話題を集めてやまない名物「肉ばっか鍋」(1鍋3280円)だ。刻み白菜の上に、豚ロース肉を敷き詰めた鉄鍋。その中心には、白菜を芯にして惜しみなく何枚もの牛肉を巻きつけた一本柱が。てっぺんにあしらわれた白髪ネギが、高尚な前衛アートを思わせる。
    ……ところで、どうやって食べるの?

  • 斉藤店長のレクチャーを受けながら調理にチャレンジ。
    まずは、白髪ネギを豚ロース肉の上にまんべんなく散らし、肉の柱を引っこ抜いて横倒しにする。そして火にかけ、鍋つゆの液面が上がってきたら、キッチンバサミで肉の柱を食べやすくカット。意外と簡単だった。

  • まんべんなく火が通れば出来上がり。
    生姜の風味が利いた中華風スープが絶妙で、これほど肉がひしめく鍋なのにいつまでも食べ飽きないおいしさが続く。たっぷりの白菜もヘルシー。
    2〜3人で十分に満足できるボリュームだが、1人で食べ切ってしまう猛者がいるとか。

  • 店内に目をやると、山形牛の法被にモンテディオ山形の選手のサインが。店長をはじめスタッフもチームの熱心なサポーターで、現役選手たちが来店することも度々。別な法被にはプロレスラーのサインも見られ、この店はアスリートたちの活力源にもなっているようだ。

    なお、キッチンカーでの出店も精力的に行っており、焼肉丼やスペアリブ焼き、人気ラーメン店監修の油そばなどが味わえる。イベントなどで見かけたら、ぜひ立ち寄りを。

住所 山形県山形市七日町4-9-13
アクセス 山形自動車道山形蔵王ICより車で約10分
駐車場 なし
TEL 080-9072-2980
営業時間 17:30~23:00(L.O.22:30)
定休日 日曜・祝日休
公式HP https://www.instagram.com/niku_back_car/

山形季節料理 花まる

  • さすがにお腹がいっぱい……だけど、はしご酒は続く。
    地元の人たちとの団らんを楽しみたくて、3軒目は「山形季節料理 花まる」を訪ねた。

  • カウンター席メインで、心地よい雰囲気に満ちた店内。
    花小路振興会の会長を長年務める店主の武田知子さんとの気さくな会話を求めて、いつもなじみの客でいっぱいだ。

  • 定番人気のメニューを尋ねると、目の前に出されたのが、やさしい味に仕上げた「モツ煮込み」(500円)と一串のサイズがボリューミーな「豚串カツ」(500円)の2品。ここでは、1000円を超える献立はない。地元の人たちがいつでも気軽に立ち寄れ、満足して帰れるようにと、武田ママの真心が尽くされている。

  • カウンターの上に目を向けると、かごに集められたおちょこの山を発見。おすすめの地酒を聞いたので、好みの1個を選ぶように促された。

  • 武田さんが取り出したのは「初孫 玄の舟唄」。キリッと引き締まった飲み飽きしない辛口で、ツウなセレクトだ。

  • 冷やもおいしいが、燗酒にしてくれた。ふくよかなお米の香りが際立つ絶妙な温度で仕上げてくれ、身も心もポカポカに温まる心地を楽しめた。

  • 家業の米屋を閉めたタイミングで、生まれ育ったこの地で飲食店をやりたいと思い立ったという武田さん。小学生の頃、夕暮れ時になると静かな町が一転して繁華街の華やぎで満ち、下校時は遠巻きに眺めていたという思い出を教えてくれた。幼心に近寄り難い畏れを抱きながらも、行き交う人で賑わう花小路の光景を忘れがたく、「花まる」のカウンターに立っているのかもしれない。

住所 山形県山形市七日町4-6-7
アクセス 山形自動車道山形蔵王ICより車で約10分
駐車場 なし
TEL 023-622-8705
営業時間 17:30~22:00
定休日 日曜・祝日休
公式HP https://wakabagai.com/hanamaru/

やまがた舞子

  • 明治維新後、料亭創業とともに繫栄した山形の芸妓文化。
    明治44年に発生した市北大火の復興記念として、大正5年に開催された「奥羽6縣聯合共進会」では、花小路の芸妓が一躍注目を浴びる契機となった。大正12年(1923)に関東大震災が起きると、疎開した歌舞伎役者などが花小路に芸妓置屋を開業。昭和初期に最盛期を迎える。

    しかし、時代の変遷とともに料亭と芸妓の数が減少。平成に入ると、料亭6軒、芸妓も10名程度となり、深刻な後継者不足に陥ってしまった。
    そこで、山形芸妓の後継者育成のため設立されたのが、「山形伝統芸能振興株式会社 (愛称:やまがた紅の会)」。現在、“やまがた舞子”が踊りや唄・三味線などのお稽古を重ね、お座敷に出て活躍中だ。

  • “やまがた舞子”は、山形芸妓、やまがた芸子とともに料亭のお座敷やホテルの宴席で優雅なひとときを提供しているだけでなく、国内外の観光イベントやキャンペーンにも出演。山形の観光の顔としての役割も担っている。
    また、山形市内の高校で授業を行うなど、若い世代への文化継承の取り組みにも精力的にチャレンジしている。

  • 花小路はもちろん、山形市内外の料亭やホテルなどで、お座敷のもてなしを楽しめるだろう。
    2024年11月に開催された「やまがた秋のハレとケまつり」では、「旧千歳館」で華麗な演舞を披露したり来場者と記念撮影を行ったりして大いに好評を博した。今後も、4月の「霞城観桜会」、8月の「花笠サマーフェスティバル」や「山形花笠まつり」、9月の「上山ふるさと秋祭り 踊り山車」といったイベント出演も予定しており、“やまがた舞子”と出会える機会があるのでお見逃しなく。

TEL 023-634-0232(山形伝統芸能振興)
営業時間 予約受付は月~金曜の11:00~17:00
料金 舞子一人1時間1万3200円〜(税込)
公式HP https://yamagata-maiko.jp/

  • 懐かしい記憶の名残をとどめながら、新たな食やもてなしの魅力も生まれている花小路。はしご酒の夜は、まだまだ続きそうだ。

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