歴史ロマン薫る
かつての福島の面影を辿る
各地に伝わる時代の残り香に思いを馳せて
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奥州三名湯の一つに数えられ、日本武尊により発見されたという伝説が残る古湯・飯坂温泉。1689(元禄2)年に、俳聖・松尾芭蕉が弟子の曾良と一緒に訪れ、この地で一夜を過ごしたと伝わっている。芭蕉のほかに、正岡子規や与謝野晶子、ヘレン・ケラーといった著名人たちも訪れ、効能豊かな飯坂の湯を楽しんだという。
旧堀切邸
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風情ある温泉街の湯沢通りを歩くと8つある共同浴場の一つ「鯖湖湯(さばこゆ)」があり、さらにその先に重厚な塀に囲まれた屋敷が目の前に現れる。ここが、江戸時代から続いた豪農・豪商、堀切家の邸宅で、現存する建造物を補修、復原、一部新築によって整備された観光交流拠点「旧堀切邸」だ。
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明治時代の近代和風住宅で建坪は約84坪、9部屋ある豪奢な「主屋」。火災で焼けた後、応急的な普請がなされたが、天然スレート葺きによる屋根やアーチ状に曲線を描く高い天井、細やかな細工が施された座敷飾りなど、当時の建築技術の粋を集めた建物になっている。また、1775(安永4)年に建築された福島県内に現存する最大最古の土蔵「十間蔵」など見どころは多い。
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堀切家が大庄屋を務めていた頃から使われていた座敷蔵の「中の蔵」。内部を見学することができ、1階中央には重厚な耐火金庫が備え付けてある。2階は書庫として使われ、「詠帰亭」扁額(複製したもの)や大福帳(金融業の名残)など、貴重な資料を展示している。
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飯坂地区に点在する源泉から引いてきた温泉で満たされた「足湯・手湯」は、観光客に人気。お湯の出口付近は50度くらいでやや熱めだが、足湯が楽しめる浴槽では40度になっておりちょうどいい湯加減になっている。散策の合間にほっと一息つくのに最適なスポットだ。
| 住所 | 福島県福島市飯坂町東滝ノ町16 |
|---|---|
| アクセス | 東北自動車道福島飯坂ICより車で約15分 |
| 駐車場 | あり |
| TEL | 024-542-8188 |
| 営業時間 | 9:00~21:00 |
| 定休日 | 無休(臨時休あり) |
| 料金 | 無料 |
| 公式HP | https://kyu-horikiritei.fckk.co.jp/ |
| https://www.instagram.com/f_kyu_horikiritei/ |
瑠璃光山 医王寺
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飯坂電車の駅名にもなっており、源平合戦で活躍した源義経の家臣の佐藤継信・忠信ら佐藤一族の菩提寺である「医王寺」もぜひ訪ねたい。勇猛果敢に戦い果てた武将の兄弟、そしてその死を嘆き悲しんだ女人たちのエピソードが涙を誘う。松尾芭蕉も足を運び、「笈も太刀も五月にかざれ紙幟」の句を詠んでいる。
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826(天長3)年、弘法大師の手による薬師如来像を祀り、古くから鯖野薬師の名で親しまれてきた名刹。奥州藤原氏の一門であり信夫地方を治めていた佐藤一族の菩提寺で、奥州三十三観音特別霊場にもなっている。本堂は1806(文化3)年に再建されたもので、源義経の家臣として信頼の厚かった兄・継信は屋島の戦いで、弟・忠信は京都吉野で戦死し、この寺院で弔われている。兄弟を失った母・乙和は大いに悲しみ、それを慰めようと兄弟の武将姿になって激励した継信の妻・若桜と忠信の妻・楓の人形が本堂内部に収められている。
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佐藤一族が信仰した薬師如来が本尊として祀られている「奥の院 鯖野薬師堂」。飯坂で温泉を発見した鯖湖親王を祀るお宮があり、その土地を“鯖野”呼ぶようになったのが名前の由来だという。境内にある板碑群には、荘司佐藤基治・乙和・継信・忠信の名を刻んだ墓碑があり、県の指定重要文化財となっている。
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鯖野薬師堂裏手にあり、佐藤継信・忠信を失った母・乙和の深い悲しみと母情がのり移ったと伝わる「乙和の椿」。あまりの悲しみの強さゆえに、蕾を作っても花開くことなく落ちてしまうという。また、源義経が佐藤基治に形見として与えられたという着物の端切れや、佐藤継信・忠信兄弟にまつわる品々、木地鞍(きじくら)、恨みの矢の根、鍍金装笈(おい)など、この寺院に伝わるさまざまな文化財を展示している「瑠璃光殿」も見学が可能(拝観料300円)。源平騒乱の時代をより深く知りたいなら、この地を訪れるべきだろう。
| 住所 | 福島県福島市飯坂町平野字寺前45 |
|---|---|
| アクセス | 東北自動車道飯坂ICより車で約5分 |
| 駐車場 | あり |
| TEL | 024-542-3797 |
| 営業時間 | 8:30~16:30 最終入場 |
| 定休日 | 年末年始 |
| 公式HP | https://www.iou-ji.or.jp/index.html |
女沼
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土湯温泉では、山津波で生まれたといわれる高原の2つの沼に足を運んでみよう。男沼から仁田沼を抜けて女沼を結ぶ散策ルートがおすすめだ。神秘的な男沼に比べ、沼一面に明るさを感じさせる女沼は、心地よい開放感を与えてくれるだろう。
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つつじ山公園のすぐ側にあり、春の花、夏の水遊び、秋の紅葉、冬の雪景色と四季を通して楽しめる抜群のビュースポット。木造の聖徳太子立像を祀る土湯の名所の一つ「土湯太子堂」建立の際、材木運搬の牛車が誤って沼に落ちてしまい、そのまま沼の主になったという伝説が伝わっている。
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オールシーズン、素晴らしい景観で訪れる人々の目を楽しませてくれるが、5月上〜下旬頃、女沼を見下ろす位置から見える「つつじ山公園」に咲くヤマツツジの花畑は実に見事。雄大な吾妻連峰を背景に、周囲の緑と鮮やかな朱赤色が美しいコントラストを描き、散策者たちを感動に誘ってくれる。
| 住所 | 福島県福島市土湯温泉町女沼頭 |
|---|---|
| アクセス | 東北自動車道福島西ICより車で約30分 |
| 駐車場 | あり |
| TEL | 024-595-2217(土湯温泉観光協会) |
| 公式HP | https://www.tcy.jp/exp/10 |
大町おかめや
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戦後復興を支えた老舗や新進気鋭のショップが共存する県庁通り商店街。往時の面影をかすかに残すアーケード街の一角に、江戸前の粋なスタイルを発信する蕎麦屋が存在感を放っている。そんな店主の心意気に共感して蕎麦をたぐる若者たちが増えているという。
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電電公社(現:NTT)時代のビルを大胆にリノベーションした店内は2階の床を取り払った吹き抜けの空間で、カウンター席に座ればオープンキッチンから伝わる躍動が、否応なく期待感を盛り上げる。厨房で腕をふるいながらも、時には気さくな会話でもてなす店主の佐藤和敬さんは、「おかめや」の暖簾を継ぐ4代目。初代の創業は1925(大正14)年で、ここ大町から歴史の歩みが始まった。その後、本店を丸子に移すが、和敬さんが創業の地に回帰したのは、曽祖父へのリスペクトの深さゆえだろう。
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子どもの頃から「おかめや」を継ぐことを心に決めていたという和敬さん。その上で、東京の割烹や蕎麦の名店での修行に身を投じ、自らが究めるべき蕎麦屋の在り方を突き詰めていった。時折、食べ歩きをする中で確信を得たのが、江戸前の正統派蕎麦屋のスタイル。まだ日が沈まない内からつまみと辛口の酒を嗜み、せいろ蕎麦で締める。そんな粋で遊び心に満ちた時間をお客に過ごしてほしいという願いが、「大町おかめや」のもてなしの根幹となっている。
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この店で提供される「せいろ」(850円)をオーダーすると、ほのかな鶯色をしているのに気づくだろう。これは、蕎麦の実の黒い外皮の下にある甘皮を残して製粉したものを使用しているため。きりっと当たりの強い濃い目のつゆに浸しても、なおも香り立つ鮮烈な青々しい風味。この味わいを守るために、製造工程はもちろん鮮度を保つ貯蔵にまで徹底している仕入れ先との連絡を大事にしているという。
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この店の醍醐味は、蕎麦屋ならではのつまみと酒を取り合わせる「蕎麦前」にこそあると言っても過言ではない。お通しの蕎麦味噌に始まり、板わさや玉子焼き、馬刺し、鮮魚のお造りなど献立は実に多彩。自慢のかえしを使った鳥焼きも、ぜひ味わっておきたい。日本酒のラインナップは、店主一押しの二本松市の地酒「大七」を筆頭に、東北や関西など各地の銘酒を取り揃える。通な大人だけに許された敷居の高さを感じてしまうが、この店では若い世代にも浸透しているようで、新たなムーブメントの広がりを予感させる。
なお、この店の蕎麦打ち工房がある文化通り側の階段を上った先で、初代の名前を冠した「亀治」というリスニングバーも営業していた。現在は、月1回程度でDJとバーテンダーをゲストに迎えた音楽イベントを開催中。この日は「大町おかめや」もラウンジフロアとなり、ドリンクやフードの提供を行う。Instagramで告知するので、ぜひチェックを。
| 住所 | 福島県福島市大町9-16 |
|---|---|
| アクセス | 東北自動車道福島西ICより車で約15分 |
| 駐車場 | お近くの有料駐車場をご利用ください |
| TEL | 024-503-9435 |
| 営業時間 | 11:30~14:00LO・17:00〜21:00LO(水曜は昼のみ営業) |
| 定休日 | 月・火曜(不定休あり) |
| 公式HP | https://okameya-oomachi.jp/ |
| https://www.instagram.com/oomachi_okameya/ |
あねさの小法師
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平和通り交差点から万世町通り交差点に至る石畳と街路樹がおしゃれなストリート「パセオ470」。その中ほどに、和洋多彩な飲食店が集まる「ふくしま屋台村 こらんしょ横丁」がある。提灯のあかりに誘われゲートをくぐり、カウンター席オンリーのこじんまりとした店構えながら賑わいの絶えない「あねさの小法師」を訪ねた。
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出迎えてくれたのは、この店を一人で切り盛りする店主の岩橋香代子さん。会津で生まれ育ち、店名にもこよなく地元愛が込められている。東日本大震災の被災地支援で会津若松市内の県立高校に炊き出しボランティアで訪れた際、会津坂下町の廣木酒造本店が手掛ける「飛露喜」「泉川」が、原発事故の風評被害で返品が相次いでいるという話を聞き、「私がお酒を売る!」と発奮したのが、このお店を始める原動力になったという。そんな情に厚く、きっぷの良い接客が心地よく、遠方からこの店目当てに訪ねてくる客も少なくないそうだ。
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カウンター奥に置かれたホワイトボードには、福島県内の名物や郷土料理の名前がずらりと並んでいる。会津地方の家庭で、年末年始やお盆、冠婚葬祭などに欠かせない「こづゆ」(660円)は、特に人気の高い一品。ホタテの貝柱から取った上品な出汁をベースに醤油と酒で味を整え、小口に切った里芋やニンジン、キクラゲ、豆麩などの具材がたっぷりと入る。縁起を担いで、具材は奇数にするのが習わし。地域や家庭によって具材の切り方や味付けも変わる。朱色が美しい会津塗のお椀は、岩橋さんの母親から受け継がれた大事な品だそう。汁を一口含むと、ほっと心安らぐ瞬間が訪れる。
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酒に合う定番おつまみの「きつね納豆」(550円)も欠かせない。岩橋さん馴染みの老舗豆腐店から仕入れる油揚げは、焼くとこんがり美しい焼き色に仕上がり、香ばしさもアップ。中に入れる納豆は、土湯温泉にオープンした納豆製造施設「おららの温泉納豆ラボ」で手がける温泉納豆を使用する。福島県産の大豆品種タチナガハを使ったこの納豆は、比較的粒が大きく風味豊かなのが特徴だが、あえて細かく砕いて食べやすくするのが岩橋さん流。オーダー時に、どちらが好みかを伝えておくといいだろう。
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常磐沖で水揚げされる高品質な魚介ブランド“常磐(じょうばん)もの”のメヒカリを使った揚げ春巻き(550円)も絶品だ。脂がのった繊細な味わいの白身が、ほくほくとした口当たりで実にうまい。もちろん、看板酒の「飛露喜」ともベストマッチする。なお、この店では日本酒の瓶を受け取り、お客が自分の手元で注ぐのがルール。表面張力ギリギリを攻めて、一滴もこぼすことなく注ぎ切りたい。また、日本酒3種飲み比べ(1320円)もお得なのでおすすめだ。
| 住所 | 福島県福島市置賜町8-6ふくしま屋台村東口屋台村こらんしょ横丁 |
|---|---|
| アクセス | 東北自動車道福島西ICより車で約12分 |
| 駐車場 | お近くの有料駐車場をご利用ください |
| TEL | 090-5354-1280 |
| 営業時間 | 18:00〜翌2:00 |
| 定休日 | 不定休 |
| 公式HP | https://www.koransyo.com/store/50.html |
| https://www.instagram.com/ini.saya.kayoko/ |
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由緒ある名所や自然の景勝地、交流育まれる街並みに横たわる歴史背景に学びながら、この地ならではの食の魅力も堪能。地域愛にあふれる人々との出会いも、心うるおしてくれる旅になるだろう。
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